Silver Lakeの貯水池のすぐ脇に、ガラス張りの3階建ての家が建っています。ミッドセンチュリーモダンを代表する建築家、Richard Neutra(リチャード・ノイトラ)の自邸兼スタジオ「Neutra VDL House」です。
ずっと行きたいと思っていた場所に、ようやく行ってきました。現在はCal Poly Pomonaが所有していて、毎週土曜にツアーで公開されています。案内してくれるのは同大学で建築を学ぶ学生で、30分ほどかけて1階から3階までを回ります。Neutraが設計した住宅のなかで、定期的に一般公開されているのはここだけです。
Silver Lakeの貯水池の目の前に建つ、建築家の自邸
家はSilver Lake Blvd.に面していて、道路を挟んだ向かいがSilver Lake Reservoir(貯水池)です。通りから見ると、縦に並んだ大きなルーバーと、白いバルコニーの水平線がまず目に入ります。手前にはアガベや多肉植物が植えられていて、Los Angelesらしい乾いた緑がよく似合っていました。
玄関まわりの板壁には、2016年にNational Historic Landmark(国定歴史建造物)に指定されたことを示す銘板が掛かっています。

「VDL」は、建設資金を貸したオランダの実業家C.H. Van der Leeuwの頭文字です。Neutraは、新しい素材や暮らし方を自分の家で試す「Research House(実験住宅)」としてこの家を建てました。
火事で焼け、父と息子が建て直した家
この家には2つの時代が重なっています。壁の銘板には、その経緯が短く刻まれていました。
最初の家「VDL Research House I」は1930年代の初めに完成しました。ところが1963年に火事で焼失してしまいます。その後、Richardと息子のDion Neutraが同じ場所に建て直し、1966年に「Research House II」として完成しました。再建では、建築家でもあるDionが設計の中心を担っています。

木の根元には、もう一つの銘板があります。Richard(1892–1970)、妻のDione(1901–1990)、息子のDion(1926–2019)の3人の名前と、「CREATORS OF THIS PLACE UNITED BY THE IDEA THAT MAN'S SURVIVAL DEPENDS ON HIS DESIGN」という言葉。人が生き延びられるかどうかはデザインにかかっている、というNeutraの考えが、そのまま家族の墓碑銘のように残されていました。

1990年にDioneが亡くなると、家は遺贈というかたちでCal Poly Pomonaに引き継がれ、今は建築を学ぶ学生たちの教材としても使われています。
ガラスの壁と自然光。直線とアースカラーの心地よさ
中に入ってまず感じたのは、「これぞミッドセンチュリーモダン!」という空気です。壁の多くがガラスで、どの部屋にも自然光がたっぷり入ります。部屋の中から見える外の眺めも良く、木々の緑や空がそのまま壁の一部になっているようでした。

空間は直線で構成されています。天井、窓枠、造り付けの棚、テーブル。そこに、ところどころアースカラーが差し込まれています。ダイニングの濃い木目の壁、キッチンの木の扉とピーチ色のカーテン、ソファのマスタード色。派手ではないのに、温かみがあります。


特に素敵だったのが、2階にあるバスルームのタイルです。腰の高さまで貼られた黒い小さなタイルと、シャワーブースのオレンジがかったタイルの組み合わせ。60年前のデザインとは思えないほど、今見ても新鮮でした。
広くない敷地を、広く見せる工夫
敷地は決して広くありません。それでも窮屈に感じないのは、あちこちに工夫が凝らされているからです。ガラスの壁で視線を外へ抜く。鏡で奥行きを足す。ベッドルームでは、デスクの上の鏡がランプの灯りを映して、部屋を実際より広く見せていました。
同じ部屋なのに、窓で景色が変わる
この建築の面白さがいちばんよく分かったのが、2階のリビングルームです。マスタード色の造り付けソファが置かれた部屋で、窓がL字型に2方向へ開いています。
貯水池側(西側)の窓は、本棚のすぐ上から天井近くまである縦に長いガラスです。木々の緑が目の高さに広がり、庭の中に座っているような気分になります。

一方、北側の窓は、濃い木目の壁の上に横長に細く並んでいます。隣の家からのプライバシーを守るために窓の高さを調整してあり、こちらから見えるのは空と遠くの山々です。

同じ部屋に立って、体の向きを90度変えただけ。それなのに、方角と窓の縦の長さが違うだけで、まるで別の場所から外を見ているように感じます。写真で見比べると、同じ部屋だとは思えないほどです。
階や部屋ごとに違う味わい
階や部屋によって味わいが違うのも面白いところです。1階にはスタジオがあり、グランドピアノと建築模型が置かれています。2階にはリビングルームとダイニング・キッチン、木の壁に囲まれた落ち着いたベッドルーム(主寝室と子供部屋)とバスルーム。そして3階の屋上にはソラリウムとルーフテラス、そしてリフレクティングプール(水盤)があります。

母屋の奥には中庭があり、白いワイヤーチェアと花びらのような形のテーブルが置かれていました。中庭から見上げると、石積みの壁の上にガラスのバルコニーが張り出していて、通り側とはまったく違う表情です。

裏庭に立つ大きな木も印象的でした。上の階のテラスに出ると、太い幹から伸びた枝が屋根の上まで大きく広がっていて、目の前が葉で覆われます。ガラスの家を、木がそっと包み込んでいるようでした。この木の特徴的な形を活かし、邪魔をしないように建物を設計したのかもしれない、と思うほどです。直線でできた建物のすぐ隣に、自由に曲がりくねった枝がある。その対比があるからこそ、家の中から見る緑がいっそう生き生きと感じられるのだと思います。

モノが少ない。当時の暮らしはミニマルだった?
ケーススタディハウスを含め、この時代の家はこれまでにいくつか見てきました。そのたびに思うのが、「モノが少ない」ということです。
人が住んでいないから、ということもあるでしょうけれど、そもそも現代の家に比べて収納が少ないと感じます。
この家にも、隠す収納があちこちに設けられています。キッチンの扉付きの棚、ベッドルームの造り付けの収納、窓の下の低い本棚。ただ、収納の量は全体的に少なめ。それで暮らしが成り立っていたのだから、当時の生活は今よりずっとミニマルだったのかな、と考えてしまいました。

モノが少ないからこそ、光と眺めが主役になる。この家の気持ちよさは、そこから来ているのかもしれません。
3階なのに、窓の外は池。リフレクティングプールの驚き
いちばん印象に残ったのは、3階のリフレクティングプール(水盤)です。
3階まで上がると、ガラスの向こうに水面が広がっています。3階なのに、部屋の外は池。こんな家は見たことがありません。水面はまわりの木々の緑と空を映していて、屋上にいるのに水辺にいるような、不思議な感覚になりました。

水盤は3階だけではありません。2階にも、レンガ敷きのテラスに小さな水盤があり、窓のすぐ外に水面が広がる寝室もありました。デスクに座ると、カーテンの向こうに水、その先に通りの木立が見えます。家のあちこちに水が置かれていて、向かいの貯水池の景色を家の中まで引き込んでいるように感じました。

派手さのある建物ではありません。けれど、ガラス、光、直線、アースカラー、そして水。一つひとつの要素が丁寧に組み合わされていて、部屋を移るたびに発見がありました。
ミッドセンチュリーモダンが好きな方はもちろん、インテリアや家づくりに興味がある方にもおすすめです。ツアーは人気なので、オンラインで事前に予約してから出かけてください。
Neutra VDL House(ノイトラ・VDL・ハウス)
- Neutra VDL Studio and Residences(2300 Silver Lake Blvd., Los Angeles, CA 90039)
- 中を見学するにはツアーへの参加が必要($15/大人)。土曜日のみの開催なので、オンラインでの事前予約がおすすめ。
- 写真撮影は可能。但し1階のピアノの近くに展示されている設計図だけは撮影NG。
- 公式サイト:https://neutra-vdl.org/