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建物は圧巻、中身は好みが分かれる?「Lucas Museum of Narrative Art」

Lucas Museum

2026年9月22日、LAのExposition Parkに「Lucas Museum of Narrative Art」がオープンしました。『Star Wars』の生みの親George Lucasと、妻でビジネスパーソンのMellody Hobsonが設立した美術館です。テーマは「Narrative Art(物語るアート)」。洞窟壁画から絵画、イラスト、コミック、映画まで、「物語」を伝える表現を時代もジャンルも超えて集めています。

構想から10年以上、San FranciscoやChicagoでの計画が頓挫した末に、George Lucasの母校USC(南カリフォルニア大学)のお膝元であるLos Angelesにやってきた美術館です。オープン2日目に早速行ってきたので、正直な感想も含めてレポートします。

まず圧倒されるのは、宇宙船のような建物

Courtesy Lucas Museum of Narrative Art. Photo by Hufton+Crow

芝生の向こうに見えてくる白い建物は、どう見ても着陸したばかりの宇宙船です。設計は北京を拠点とするMAD ArchitectsのMa Yansong。延床面積は約30万平方フィートで、うねるような曲面の外壁が地上から浮かび上がっています。

建物の下はキャノピー(大屋根)のような広場になっていて、見上げると天井にぽっかりと円形の天窓が開いています。晴れた日には、そこから差し込む光が地面に大きな円を描きます。館内に入ると、ガラス張りの円筒形エレベーターが並ぶロビーがあり、ここも思わず写真を撮りたくなる場所です。

上階の窓からは、ガーデンの緑とDowntown LAのビル群を一望できます。北と南にある展望スペースには木製の曲線ベンチがあり、ひと休みにぴったりです。

おすすめの回り方は「4階→5階→1階」

館内の構成は少し独特です。1〜3階は吹き抜けになっていて、展示のメインは4階と5階、そして1階です。

まずはロビーのガラス張りの円筒形エレベーターで4階へ上がります。4階では、テーマ別・アーティスト別の展示を見られます。

ここで注意してほしいのが5階です。1階から5階へ直通するエレベーターはありません。4階の南側(Park & Gardens側)にあるエレベーターか階段を使って上がります。案内が分かりにくいので、気づかずに帰ってしまう人もいそうです。この美術館のハイライトである5階のMurals Galleryを見逃さないように、4階を見終わったら南側のエレベーターか階段を探してください。

5階を見たら1階へ下りて、シアターと《The History of Narrative Art》を最後に見る。これがいちばん回りやすい順番だと思います。展示室はとても広く、全部をじっくり見ると半日以上かかります。この記事でも、その順番に沿って見どころを紹介していきます。

【4階】時代も国もバラバラ。「テーマ別」の展示が新鮮

この美術館のユニークな点は、作品を時代や国ではなく、Family、Love、Childhood、Sportsといったテーマで分けていることです。たとえばSportsの展示室では、野球をする少年たちのイラストと、バスケットボールを指先で回す選手の線画が並んでいます。

特に印象的だったのが、Norman Rockwellの《The Runaway》(1958)の隣に、Richard Williamsの《The Militarization of the Police Department—Deadly Force》(2014–15)が並んでいたことです。Rockwellの作品では、食堂のカウンターで優しい警官が家出少年に話しかけています。Williamsはその構図をそのまま使い、完全武装した警官と黒人の少年に描き替えました。同じ場面なのに、60年の時を経て全く違う物語になっています。テーマ別に並べるからこそ生まれる対比だと感じました。

左:Norman Rockwellの《The Runaway》(1958)
右:Richard Williamsの《The Militarization of the Police Department—Deadly Force》(2014–15)

ほかにも、Frida Kahloの《Self-Portrait Dedicated to Dr. Eloesser》(1940)や、Maurice Sendak『Where the Wild Things Are』の原画、E.H. Shepardが描いたWinnie-the-Poohの原画(1928)なども見られます。

Frida Kahlo《Self-Portrait Dedicated to Dr. Eloesser》(1940)

【4階】Snoopy、Tintin、Garfield。コミックの原画に大興奮

個人的にうれしかったのがComicsのコーナーです。Charles M. Schulzの《Peanuts》、Hergéの《Tintin》、Jim Davisの《Garfield》、Otto Messmerの《Felix the Cat》など、子どもの頃から親しんできたキャラクターの原画が並んでいます。《Krazy Kat》、《Prince Valiant》、《Doonesbury》といったアメリカの新聞漫画の名作もあります。1939年のTintinの原画は、インクと水彩の色が今も鮮やかです。

Charles M. Schulz《Peanuts》
Jim Davis《Garfield》
Hergé《Tintin》
Otto Messmer《Felix the Cat》

「manga」のコーナーもあり、日本人としてはうれしい限りです。

鉄腕アトムと火の鳥が1枚に描かれた水彩画《Astro Boy and Phoenix》(1981)は必見です。ただし、ラベルは「Attributed to Osamu Tezuka(手塚治虫の作とされる)」となっています。ほかにも尾田栄一郎の《ONE PIECE》のカラーイラストや、『AKIRA』の金田の等身大フィギュアなどがあり、海外のファンと一緒に日本の漫画を見る不思議な体験ができます。

《Astro Boy and Phoenix》(1981)

【4階】もちろんありました、Star Wars

George Lucasの美術館なので、『Star Wars』に触れないわけにはいきません。Cinemaのコーナーに《Star Wars in Motion》があり、Anakinのポッドレーサー、Lukeのランドスピーダー、R2-D2とC-3PO、General Grievousのホイールバイクなどが並んでいます。展示室は大勢のファンで賑わっていました。

ライブラリー棟のロビーには、Naboo N-1スターファイターが天井から吊られています。ここはチケットがなくても見られます。

Star Warsを見て満足して帰ってしまうのは、まだ早いです。この美術館の本当の見どころは、この上の5階にあります。

【5階】Murals Galleryは、この美術館のハイライト

正直に言います。この美術館に行くなら、5階のMurals Galleryだけは絶対に見逃さないでください。ここに来るためだけにチケットを買っても惜しくないと思えるほど、見応えのある展示室でした。1階からの直通エレベーターはないので、4階の南側(Park & Gardens側)にあるエレベーターか階段で上がってください。

Murals Galleryのテーマは「公共の場で語られる物語」です。街の壁や建物は、昔から人々が権力に声を上げ、歴史を刻み、自分たちが何者かを伝えてきたキャンバスでした。この部屋には、その系譜に連なるアーティストたちが集められています。メキシコ壁画運動のDiego Rivera、LAのチカーナ(メキシコ系アメリカ人女性)壁画家Judith F. Baca、フランスのJR、そしてBanksyです。時代も国も違う彼らの作品が同じ空間に並ぶことで、「壁に描く」という行為そのものが持つ力がストレートに伝わってきます。

Banksyを「壁ごと」体感する

展示室の奥に進むと、2面の壁にわたってBanksyの作品が並んでいます。《Girl with Balloon》、《No Ball Games》、《Flower Thrower》、《Mobile Lovers》、天使の羽を付けた機動隊員の《Flying Copper》など、誰もが一度は見たことのある作品ばかりです。

Banksy《Girl with Balloon》

「これって本物?」と思わず確かめたくなります。ラベルには「Banksy / Stencils from 2002–2026 / Spray painted on wall segments」とあり、作者はBanksyとされています。美術館は、Banksyのスタジオから直接手に入れた作品を含むコレクションを持っていると発表していて、借りてきた作品ではなく美術館の所蔵品です。ただし、ロンドンで描かれた《Girl with Balloon》や、パレスチナ自治区のBethlehem近郊で描かれた《Flower Thrower》など、路上に描かれたオリジナルそのものではありません。

Banksy《Flower Thrower》

Banksyの作品は、もともと街なかの壁に描かれるものです。実際に建物の壁ごと切り出されて売買されたり、美術館に移されたりした例もあります。ただ、ここに並ぶ作品は、街から壁を運んできたものではありません。ラベルにあるとおり、Banksyのステンシル(型紙)を使って、美術館のために用意した壁のパーツにスプレーで描き直したものです。

Banksy《No Ball Games》

面白いのは、その壁の作り込みです。《Girl with Balloon》の壁は、端のしっくいが崩れてレンガがのぞき、上には有刺鉄線まで張られています。こうした質感は、作品が生まれた路上の雰囲気を再現するために、あえて作られたものです。横から見ると、本当に路上の壁を切り取って運んできたかのような立体感があります。本や画面で何度も見てきた作品なのに、目の前にするとまったく別物に感じました。

BanksyはLAにも来ていた

LAに住む私たちにとって胸が熱くなる展示もあります。2011年、BanksyはDowntown LAの壁に作品を残しています。住宅バブルが崩壊した後の街で、「FOR RENT」の看板が掛かった壁に、クレヨン調の家を描く子どもと、その家を板でふさぐ作業員を描いた作品です。

Murals Galleryには、そのときBanksyが実際に使った段ボールのステンシルが展示されています。同じ図柄を大きく描いた作品もあり、ステンシルと完成形を見比べることができます。「あのBanksyが、この街の壁にスプレーを吹き付けていた」という事実が、ぐっと身近に感じられる展示です。

見逃し注意!Banksyのライオン像

実は、Banksyの作品は5階だけではありません。4階のChildren's Storiesのギャラリーの前には、Banksyがこの美術館のために制作した新作が置かれています。一対の石のライオン像で、片方は鞭をくわえ、足元にはシルクハットが転がっています。口元にはうっすらと赤いペイント。サーカスの猛獣使いがどうなったのかを想像させる、Banksyらしいブラックユーモアです。

私は残念ながら見逃してしまいました。かなり悔しいので、これから行く方はぜひ探してみてください。

JRが写した、国境の壁の向こう側

Banksyと並んで強く心を揺さぶられたのが、フランスのアーティストJRです。JRは、街の壁や建物に巨大な写真を貼り出し、その光景をもう一度写真に収めて作品にしています。展示作品の多くには、政治や体制へのメッセージが込められています。

中でも圧倒されたのが《GIANTS, Kikito》(2017)です。米国とメキシコの国境の壁の向こうから、巨大な男の子が柵に手をかけてこちらをのぞき込んでいます。手前には国境警備隊員が1人、その子を見上げるように立っています。壁の大きさと男の子の無邪気な表情、そして警備隊員の小ささ。展示室の壁一面を使った大きなプリントの前で、しばらく動けませんでした。

JR《GIANTS, Kikito》(2017)

ほかにも、BerlinのBrandenburg Gateに「FREEDOM」の文字を掲げた《Giants, Brandenburg Gate》(2018)や、Ellis Islandに降り立った移民たちの古い写真を廃墟の壁によみがえらせた《Unframed》シリーズ(2014)が並んでいます。国境、自由、移民。どれも今のアメリカで暮らす私たちにとって、他人事ではないテーマです。

JR《Giants, Brandenburg Gate》(2018)

LAの壁画の原点、Judith F. Bacaの《The Great Wall of Los Angeles》

Murals Galleryでは、LAを代表する壁画家Judith F. Bacaの資料も紹介されています。San Fernando ValleyのTujunga Washに描かれた約0.5マイル(約800m)の壁画《The Great Wall of Los Angeles》は、1976年から若者たちと一緒に制作され、教科書には載らないカリフォルニアの歴史を、先住民や移民、マイノリティの視点から描いています。

Banksy、JRと同じ部屋で、LAのローカルな壁画の歴史にも出会えるのがうれしいポイントです。展示を見た後に、本物の《The Great Wall of Los Angeles》を見に行くのもおすすめです。

Diego Riveraから続く「壁の物語」

メキシコ壁画運動を代表するDiego Riveraの作品もあり、同じ部屋にはPablo Picassoが1937年にFranco政権を風刺した版画《Dream and Lie of Franco》も展示されています。約100年にわたって、アーティストたちが壁や紙の上で権力と向き合ってきたことが、一つの流れとして見えてきます。

最後に、ちょっと笑えるオチも

展示室には、ミサイルや機関銃を満載した大統領専用のゴルフカートも置かれています。一瞬Banksyの作品かと思いますが、実はDarren Cullen(Spelling Mistakes Cost Lives)の《Golf Cart One》(2026)という作品です。芝生と星条旗まで添えられたブラックユーモアに、思わず苦笑いしてしまいました。

Darren Cullen《Golf Cart One》(2026)

【1階】映画好きなら、Slavko Vorkapich Theaterへ

Courtesy Lucas Museum of Narrative Art. Photo by Hufton+Crow

館内には2つのシアターがあります。そのうちSlavko Vorkapich Theaterでは、映画の歴史をたどる短編がいくつも上映されています。Georges Mélièsなど初期のサイレント映画、Man Rayの実験映画、Winsor McCayの初期アニメーション、さらにGeorge Lucasが学生時代に撮った短編まで観られます。

実験映画というと難しそうに聞こえますが、映画が生まれたばかりの頃の「動く絵」の驚きを追体験できる、とても面白い時間でした。展示室にはMélièsの『A Trip to the Moon』(1902)のためのドローイングもあり、シアターとあわせて見ると楽しさが増します。

【1階】最後は《The History of Narrative Art》へ

最後に1階の《The History of Narrative Art: Heroes・Myths・The Sacred》を見ました。洞窟壁画を投影したトンネル、Hagia Sophiaの内部を映し出す巨大スクリーン、エジプトの墓の壁画や歌川国芳の武者絵のライトボックスなど、映像や複製で「物語の歴史」をたどる展示です。

建物のインパクトは本当にすごいのですが、正直に書くと、美術館全体を通してアート作品の鑑賞という点では「感激した!」とまではいきませんでした。特にこの1階は、空間としては美しく見応えがあるものの、「本物を前にして息をのむ」タイプの展示とは少し違います。5階のMurals Galleryで壁画の迫力を味わった後だと、なおさらそう感じるかもしれません。

チケットなしでも楽しめる、ガーデン・ライブラリー・レストラン

美術館を囲むガーデンは無料で入れます。芝生が広がり、ピクニックテーブルもあるので、お弁当を持って来るのもおすすめです。

ガーデンで絶対に見逃せないのが、YodaとGrogu(通称ベイビーヨーダ)の噴水です。噴水の上に厳かにたたずむYodaの後ろから、Groguがちょこんと顔をのぞかせています。このシュールさは、ぜひ実物で見てください。

リサーチライブラリーも無料で利用できます。2〜3階が吹き抜けになった閲覧室は、楕円形の天井と何層もの書架に囲まれていて、まるで映画のセットのような空間です。

チケットなしで行ける、最上階のレストランとカフェ

Courtesy Lucas Museum of Narrative Art. Photo by Iwan Baan

5階にはフルサービスのレストラン「Skywalker Grill」があります。George Lucasの映画制作の拠点、Skywalker Ranchをイメージしたお店で、窓からはLos Angelesの街を一望できます。料理はカリフォルニアの旬の食材を使ったアメリカ料理です。内装はRockwell Groupが手がけていて、サクラ材の曲線的な壁と天井が印象的です。屋外のテラス席もあります。

うれしいのは、美術館のチケットがなくても利用できることです。美術館の閉館後も営業しているので、ディナーだけの利用もできます。予約はResyで受け付けています(火曜定休)。

1階にはStarbucksのカフェもあり、こちらもチケットなしで利用できます。今回はどちらにも入らなかったので、次回はぜひ行ってみたいと思います。

ミュージアムストアは映画ファン向け

ミュージアムストアは、映画のキャラクターグッズが充実しています。SwarovskiのStar Warsクリスタルフィギュア、R2-D2のクッキージャー、「STAR WARS IN MOTION」や「LUCAS ARCHIVES」のエナメルピンズ($14)などが並び、ファンにはたまらない品ぞろえです。正直に言うと、キャラクターものに興味がない私はあまり惹かれませんでした。ただ、アート書籍のコーナーは充実していて、TASCHENから出ている美術館の公式本もあります。


建物は圧巻で、George Lucasの美術館らしい遊び心もたっぷりでした。一方で、「名画を前に感動する」美術館を期待すると、少し肩透かしに感じるかもしれません。

それでも、Banksyを壁ごと見られること、JRが写した国境の物語、子どもの頃に夢中になったコミックの原画、映画の誕生を追体験できるシアターなど、ほかの美術館ではなかなか出会えない展示がそろっています。「Star Warsの美術館」だと思って行くと、良い意味で裏切られるはずです。ガーデンとライブラリーは無料なので、まずはYodaの噴水を見に行くだけでも楽しめます。

Courtesy Lucas Museum of Narrative Art. Photo by Iwan Baan
Lucas Museum of Narrative Art
  • 住所:One Lucas Plaza, 3800 S Vermont Ave, Los Angeles, CA 90037(Exposition Park内)
  • チケット:日時指定の事前予約が必要です(子どもやメンバーも予約が必要です)
  • チケット不要のエリア:ガーデン、リサーチライブラリー、レストランSkywalker Grill(5階)、カフェ(1階)
  • 駐車場:美術館の地下にあるRed Structure Parkingが最寄り(Flat Rate $25)。周辺に路駐スペースもあり。
  • 公共交通:Metro E Line「Expo/Vermont」駅から徒歩圏内です
  • 公式サイト:https://lucasmuseum.org/
  • Instagram:@lucasmuseum
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MAY

東京でWebマーケティング・ECコンサルに従事した後、2011年に長年の夢であった海外生活をすべくロサンゼルスに移住。現在はフリーランスとして日米2拠点生活+旅をしながら暮らす。
趣味:旅(特にロードトリップ)、街散策、キャンプ、国立公園巡り、イベント巡り(特にフェスと映画祭)、西海岸メイドの素敵なブランドを発掘すること。
A former web marketing and e-commerce consultant who worked in Tokyo, I moved to Los Angeles in 2011 to pursue my dream of living overseas. Now a freelance writer and consultant, I split my time between the U.S. and Japan while covering travel, festivals, film, and West Coast lifestyle. I love road trips, urban wandering, camping and national parks — and I’m always hunting for small, beautifully made West Coast brands.

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