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クラフトビール文化はアメリカ西海岸でこうして生まれた!

12/29/2015

クラフトビールってそもそも何?

まず、「クラフトビールって何?」というのを、アメリカのクラフトビール専門のWebメディア、『CraftBeer.com』によると、以下のような定義付けをしています。

●アメリカのクラフトビールブリュワー(醸造家)とは…

・小規模であること
年間生産量が600万バレル(7億200万リットル)以下であること(アメリカ全土の年間販売量の約3%)。

・独立していること
アルコール飲料業界のメンバーである大規模な企業に所有もしくは運営されているクラフトブリュワリーは、全体の25%に過ぎない(小規模、もしくは個人所有のことが多い)。
※小規模のブリュワリーのことを、「Microbrewery(マイクロブリュワリー)」と呼びます。

・伝統的であること
生産する大部分のビールが伝統的、もしくは革新的な醸造をしていること。

でも、7億200万リットルって、ものすごい量ですよね。「日本ビアジャーナリスト協会」によると、この数字は日本の最大手クラフトビールメーカーの生産量の230倍もの数字とのこと(!)。やはりアメリカ、スケールが違うというか、「小規模」の基準が日本とは全然違うのです(笑)。

もう少し掘り下げてみると、西海岸発信のクラフトビール文化を表すキーワードとして以下が挙げられます。

・創造的かつアルティザン(職人)精神、DIY
アメリカのビールと言えば、「Budweiser」や「Miller」など、大量生産かつ味も平易なものが主流。そういった大量生産・大量消費に異を唱え、職人精神、DIY精神を持ったブリュワーたちが、個性的、創造的なビールを作る、というのが西海岸発クラフトビール文化の大きな特徴の一つです。

・地産地消、ローカル、スローフード
「マクドナルド」などのファストフードではなく、地元(ローカル)で作られたものをローカルで消費するという「スローフード」や「地産地消」などもクラフトビール文化の重要なキーワード。実際、多くのクラフトビール愛好家たちは地元のビールを楽しみ、誇りにしています。また、マイクロブリュワリーに併設するタップルームやバーの多くは、客が立ち飲みするカジュアルな雰囲気で、ローカルの人たちが知り合う社交場となっています。

・味わいの多様性
日本ではビールというと、「俺はアサヒ派」とか「私はサッポロ」なんて会話が交わされますが、アサヒもサッポロもキリンも、ビールの種類でいうと同じ「ピルスナー」という種類。どれもおいしいですしそれぞれに良さがあるのですが、味は比較的似ています。でも、クラフトビールの世界では西海岸の象徴的なビールIPA(Indian Pale Ale)を代表とするエール、さらにはポーター、スタウト、アルト…など、作り方や原材料の違いでさまざまな種類があり、数え上げたらキリがありません。『CraftBeer.com』によるとビールの種類には142種類もあるとか!もちろん、味や香りも全く違います。

「クラフトビールとは」を理解していただいたところで、現在のこのクラフトビールムーブメントが西海岸でどのようにして生まれ、世界に普及したのか見ていきましょう。

 

禁酒法を経て独自の進化を遂げた
アメリカのビール

西海岸でなぜクラフトビールブームが生まれたのか。きっかけはアメリカにて1920年〜1933年まで施行された「禁酒法」でした。この法律によって、アメリカ全土に禁酒法直前までは1200近くあったブリュワリーは、密造酒を作るような所を除いて姿を消してしまいました。禁酒法の廃止後、1935年までにブリュワリーの数は約700まで回復するも、そこから徐々にまた減少。禁酒法前のレベルまでブリュワリーの数が戻ることはありませんでした。

しかし1965年、変化が訪れます。サンフランシスコのブリュワリー、「Anchor Brewing Company」がMaytag社(かつてのアメリカの家電メーカー。現在はアメリカの家電メーカーWhirlpool(ワールプール)の中の1ブランド)に買収されて方針を大きく転換したのです。彼らは当時のヒッピー文化が持っていた、自然回帰、ナチュラル志向、ベジタリアンなど自然食を好む思想を背景に、大手メーカーが作るような軽いビールではなく、ヨーロッパの伝統的な味わい深いビールを作るようになったのです。これが現在のクラフトビールムーブメントの最初のきっかけと考えられています。その後も西海岸では1976年にカリフォルニア州ソノマに 「New Albion Brewing Company」が、1980年にはカリフォルニア州チコにて「Sierra Nevada Brewing Company」が創業し、「Anchor Brewing Company」と似たような思想のもとにビールを作り、クラフトビール文化を作り上げていきました。

1972年にもアメリカのクラフトビールムーブメントにおいて重要な出来事が。オレゴン州にて、アロマホップ「カスケード」が誕生したのです。ホップはビールに苦味や独特の香りを与えると共に、雑菌の繁殖を抑えてビールを長持ちさせる重要な原料の一つなのですが、この「カスケード」ホップはフローラルな香りと柑橘系の強い苦味が特徴。そして、この「カスケード」ホップを使ったIPA(Indian Pale Ale:イギリスでインドを植民地にしていた時代に誕生したペールエールで、インドまで輸出する際、ビールを腐らせないために大量のホップを使用して作ったビール)はそれまでになかった独特の味わいで、アメリカのクラフトビールの代名詞となったのです。

そんな流れの中、1979年、 ジミー・カーター大統領が当時は禁止されていたホームブリューウィング(自家醸造)を解禁しました。これにより、DIY(Do It Yourself)精神溢れる西海岸の人たちが「自分の近くにうまいクラフトビールがないなら、自分で作っちゃおう」と、ビールを趣味で自家醸造し始めたのです。彼らはブリュワリー同士の独自のネットワークを作って情報交換しながら、どんどんビールの質を高めていき、中にはプロとして本格的に仕事にしてしまう人たちが現れ始めました。例えば、今やアメリカを代表するクラフトビール会社の「Sierra Nevada Brewing Company」(本社:カリフォルニア州チコ)や「Samuel Adams Brewery」(本社:マサチューセッツ州ボストン)も、最初はホームブリューワリーからスタートしたというから驚きです。

このようにしてアメリカ西海岸ではどんどんクラフトビールを作るホームブリューワリー、そしてマイクロブリュワリーが増えていきました。そして、IPAをはじめとするアメリカらしい味わいのビールを作ったり、ヨーロッパのビンテージなビールを復古させたりしながら、独自のクラフトビールムーブメントを創り上げていきました。これが東海岸、さらにヨーロッパ、日本をはじめとするアジアにも飛び火し、現在の世界各地におけるクラフトビール旋風につながったのです。

 

◉引用元:

  • What is Craft Beer?」(『CraftBeer.com』)
  • History of Beer」(『CraftBeer.com』)
  • Microbrewery」(『Wikipedia』)
  • クラフトビールとは?クラフトビールの定義とは?」(日本ビアジャーナリスト協会)
  • ビールの定義」(ビール酒造組合)
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    Totti

    LA在住歴10年超のアラフォー日本男児。日本では書籍や雑誌、Webメディアの編集および執筆、広告制作などに従事。現在はフリーランスの編集者&ライター。

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